2021年 学生照明デザイン競技 審査結果

課題“あなたやあなたの大切な人の為の空間にほしいあかり”

照明器具デザインに特化したデザイン競技でしたが、LED光源特性への注目だけでなく、時代性や社会性を取り込んだ内容が数多く見られた点には審査員の関心が集中しました。
コロナ禍影響もあり初年度応募は多くない状況でしたが、最優秀賞、優秀賞、企画賞を含め11作品が入選となりました。
社会状況を鑑み、今回は対面式の表彰式は行わず、ウェブによる受賞者作品発表、及び審査講評を実施致します。

作品発表及び審査講評会(オンライン) 
11月2日 火曜 18:00〜19:00
(追って関係者にURLをお伝えします)。

総合審査講評

今回応募されたどの作品も、公募テーマに沿って、自分が大切と思う人の生活のシーンでどのように使われる照明器具かについて、一定の考察はされていました。しかし、デザインする照明器具が、生活をどう変化させるかについて、もっと広く深く想定されていれば、より価値を持ったデザインに仕上がったように思える作品が数多く見られました。
また、これは照明器具のデザインに限ったことではないのですが、今の社会でモノをデザインするにあたっては、製造から使用までの視点だけでは事足りません。今の時代のデザイナーには、持続可能な社会を実現するために、製造から廃棄に至るまでのプロセスにおける環境負荷への考慮が求められています。
今回の応募作品には、そのような視点を持った作品が少なかったのは残念な点でした。
今後このコンペが、照明器具の持つ可能性を探る機会として、大きく発展していくことに期待しています。

京都市立芸術大学 辰巳明久

◆最優秀賞
“ 照る結う – tell you - “

作者
高部 航南、 山本 理央
立命館大学大学院・理工学研究科、1年

作品説明

一つの家族であっても、同じ家に住むことができないような状況は多く存 在します。家に帰った際に、家族が迎え入れてくれることや、逆に家族を迎え 入れることは、本来ひとつ屋根の下で住む家族でしか味わうことのできない 小さな喜びといえるでしょう。そんな、家族間のコミュニケーションを照明で 感じ取ることができるよう、この作品を製作しました。

大きな輪は家族、小さな輪は離れて暮らす単身赴任者を表現しています。そ れぞれが在室している際に点灯し、帰宅や外出時のバロメータとなります。家 族の在室を感知して、離れた場所で暮らす相手の元に灯をともすことは、まる で、「ただいま」や「おかえり」の“声”が聞こえてくるように感じさせてく れます。そして、離れていてもお互いの存在を感じられ、心が通じ合っている 気持ちを感じさせてくれます。造形は、離れて暮らす家族をイメージして、2 つの輪で結ばれており、それぞれ支え合う絆で結ばれるように一つの照明器 具として成り立っています。これによって、大切な人との絆を再確認できた り、離れていても安心感が得られたり、また、テレビ電話など次の会話へのき っかけづくりといった効果がもたらされます。

光源器具としては、LED のエッジライトを使用しており、隠すことの多い光 源部分も含めて造形に取り組みました。導光板は U 字になっているため、実際 に2つのエッジライト絡め合わせられる設計となっています。

審査員講評

「照る結う – tell you-」という作品名の通り、単身赴任などの多い昨今の時代背景に合ったコンセプトが審査員の高い評価を得た。光が点灯することによって遠く離れた家族間の「安否確認」ができるという事だが、センサーによる顏認証か指紋認証など人物が特定できるのに用いる媒体が何であるかも示されると一層理解が深まったと思う。光源を意識させないエッジライトによる発光方法もLED光源の使い方として的を得ている。応募作品の中でも、造形力も高く、「結果意匠=デザイン」としてのまとまりもアイデアも高いレベルで表現されている。スタンドライトとして製品化する場合、このデザインでは傾けた時の転倒の可能性があり、ベース(台座)に当たる部分の造形デザインも含めてもう一工夫すると、さらに完成度があがる作品でもある。プレゼンテーションの表現もわかりやすく、それぞれのシチュエーションでの機能も含めてこの作品の特長をうまく伝えているグラフィックデザインとしての表現能力も高く評価できる。

◆優秀賞
“ OASIS ∼Fusion of Light, Water, and Plants∼ “

作者
新徳 怜奈、 藤田 望
大手前大学・建築&芸術学部、3年

作品説明

パンデミックにより1日のほとんどを家の中で過ごす生活が定着しつつある。家族 と過ごす時間が増えたことはメリットと考えるが、毎日同じ空間にいるとストレスや 疲労感が溜まり、作業効率や生活の質が低下するなどのデメリットも考えられる。 そこで私たちは「癒される空間」が必要だと思った。そのような背景を"枯渇した砂 漠"に置き換え、家族と過ごす空間を「オアシス」のような憩いの空間づくりのため に「光・水・植物」を融合させた癒しの照明器具を考えた。

ここでフォーカスを当てたのが「聴覚と視覚」である。私たちは普段の生活におい て水の流れる音を聞く、植物を鑑賞することによって癒されると感じることはある が、水の流れる音、植物が室内にあることによるストレスの緩和効果は実験によっ て実証されている。

OASIS にもストレスの緩和効果を取り入れるため、聴覚については、常に水の流 れる音を聞くことができるように水中ポンプを内蔵し、水を循環させた。視覚につい ては、温かみのある照明器具にするため、管の部分に色温度の低い電球色のコン パクトな LED ライトを導入し、さらに水を流すことによってより光を拡散させた。また 葉の部分は植物を育てることが苦手な人でも容易に OASIS を利用することができ るように人工の葉を使用した。

昼間は照明を消し、インテリアとして植物や水の流れる音を楽しみ、夜は温かい 光と水の流れる音によってリラックスできる癒しの空間づくりを提供できる。

審査員講評

時代を考察しデザイン計画方向性を定め、それを掘り下げるプロセスに於けるスタディーを経て形を生み出す様子に、真摯な制作姿勢を感じる作品であった。 水中モーター等ノイズ課題や水量により起こる音の質の違い等々についての考察は今回行わず、視聴覚に対する着眼点を評価した結果となっている。 実際に制作を通し計画内容の効果度合いを確認しようとする姿勢も高く評価できた。 微妙に動く水面を考えると、反射による周辺への光効果に、更なる驚きを生む可能性を有する作品ではないかと思われる。 水と光による効果は手法として従前から存在するが、点光源に近いLED光源特性に注目することで、当該照明器具はサイズが小さいながら具現化可能で、前述の光効果には新たな期待や可能性が感じられる内容であった。

◆優秀賞
“ Poka・Poka - 成長するあかり – “

作者
藤原 悠紀
大手前大学・建築&芸術学部、3年

作品説明

この照明はこのコロナ渦ですこし憂鬱な気持ちを抱えた人へ、人のアクションに反 応を示す照明を通して、暖かな気持ちになってほしい、そしてひかりに愛着を持っ てほしいという思いを込めた。

この球体の表面には人感センサーを取り付け、触れるとセンサーが反応、そして 照明がじんわりと反応し、まるで触れられたことを喜ぶように暖かな光を灯す。

デザインとしては「成長」と「触れたくなる」をイメージした。三角形は”始まり”・”中 間”・”終わり”を表し、成長や拡大を象徴とすると言われている。その三角形を球体 表面と台座に配置している。「触れたくなる」を意識した表面には、柔らかくしっとり とした肌触りで、保温性もある羊毛フェルトを貼り付けた。様々な大きさの三角形を ランダムに貼り、触る場所によって触り心地が異なる、ずっと触れていたくなり、気 持ちが暖かくなるような質感に仕上げた。フェルトが重なりできた層の厚さが異なる 場所によって透け具合も異なっており、単調ではなく変化のある、それでいて柔ら かな光が演出される。重なった箇所にも影によってできた新たな三角形が浮かび 上がる。

毎日触れていると徐々に機能が解放されていき(成長)、タイマー機能や指定した 時間に点灯するようになったり、GPS によって自宅へ帰宅する前に照明が点灯し、 出迎えてくれるようになったりと、この照明にできることが増えていく。

審査員講評

「成長」と「触れたくなる」という点、すなわち時間的変化と触覚を切り口として、人間と照明の距離感を変化させることを試みる作品である。通常、光の変化に関しては、コントローラーの操作で量や色を変化させる方法が常套手段であるが、触覚を用いてインタラクティブ性を強めている点と、変化させる対象が点灯方式である点に強いオリジナリティが感じられた。羊毛フェルトを用いている点も、肌触りや透過性などを考慮の上で様々な材料の中から選択していると思われ、Poka Pokaというタイトルが表現しているぬくもりのある光を実現することに大きく貢献している。一方で、センサーから得られた情報により点灯方式を変化させる部分の説明が単純で、この方法で成長を感じられるかどうかという観点からは説得力が弱い。この部分のストーリーにもう一工夫あればより高い評価が得られたと考えられる。

◆企画賞
“ 護心灯 “

作者
松尾 みのり
神戸大学・工学部建築学科、1年

作品説明

私自身や私の大切な人のための照明として、新しい街灯を提案しました。 今日、コロナウイルスの流行により、夜間の店舗の営業が減少し、それに伴っ て夜道の人通りも減少しました。そこで気にかかるのが夜間の外出時の安全 性の低下です。私は、今回のテーマの基に、私自身や大切な人の為に「安全性 の確保」と、それによる「安心感の提供」をしたいと思ったことに端を発して この提案をしました。

まず、この街灯は、各店舗や各家庭の玄関先などに取り付けるタイプのもの です。店舗の夜間営業の減少により、あかりが少なくなった場所の店舗や家庭 への設置を想定しています。汎用性を高めるため、手入れを簡単にするため に、デザインはシンプルかつ、どこにでも取り付けられるようにコンパクトな仕様にしました。また、人々に安らぎを与えられるように薄い黄色光と丸みを 帯びた形も特徴です。

さらに、この街灯には LED を使います。このことによって、現在重要視され ている省エネ化や長寿命化、屋外の比較的高所に取り付けるものとして求め られる強度・防水性の確保を実現できるとしています。

審査員講評

コロナ禍により、夜間の店舗の営業時間の短縮などで街の明かりが暗くなっている現実を見て、「安全性の確保」とそれによる「安心感の提供」という切り口から統一した小さなあかりを個々の住宅や店舗に設置することにより街の景観にもまとまりを創り出せるという企画提案が良かったが今回の提案は意匠面の評価が今一歩及ばなかったが、考え方のアプローチが面白く、審査員全員一致で、「企画賞」として選出することになった。

◆入選
“ Starry night “

作者
平井 綾音、 内村 綾花
大手前大学・建築&芸術学部、3年

審査員講評

「Starry night」星夜という作品名で、夜の授乳時に明る過ぎず暗すぎず母と乳児のためのあかりという優しさをコンセプトで考えられている。「手動で授乳時のライトと、光色が自動で変わるタイプに変えることができる」とあるがこの意味が正確に伝わっていない。また、コットンシリコンという素材の使い方や提案されている「Starry night」のあかりの造形としてのあかりの形がどのようなものなのかを伝えることができていない点が惜しまれる。

◆入選
“ 氷晶 “

作者
伊藤 明日香
嵯峨美術短期大学・美術学部デザイン学科、2年

審査員講評

光のゆらぎの面白さを、ガラス制作する中で発見し、それを形に組み上げた作品である。
偶然性の伴う光効果部分もあるが、ガラス制作体験から把握した光ゆらぎの具合や、優しい風合いをうまく形に整理してゆく姿勢が評価された。
多角形状に立てられたフュージングガラス上部によって、ゆらぎのある光にエッジが生まれてしまうが、上部に新たなガラスを乗せる打開策以外でその点への造形的対処を考察してゆけば、当該作品の更なる昇華につながると思われた。

◆入選
“ ナース ・ライト “

作者
宇佐美 英寿
大手前大学・建築&芸術学部、3年

審査員講評

医療従事者及び患者に寄り添う光、という提案で、実用性が重視された作品である。医療の場における照明のニーズを整理し、それに基づいて提案を行っている点が評価できる。一方で、提案された技術に新規性が乏しく、全体の形状としても、提案された技術と結び付く説得力の高いものであるとは思えない。既存の照明器具の延長線上に位置付けられるものであり、現場のニーズの強さを考慮したより積極的な提案が欲しかった。

◆入選
“ Shining Thurible ~こころ和む灯り~ “

作者
國府 建汰
大手前大学・建築&芸術学部、3年

審査員講評

ライトセラピーとアロマセラピーを組み合わせて、心を和ませるあかりとして提案しているが、コンセプト自体に目新しさはない。描かれている意匠図からろうそく球と呼ばれるフィラメント形状LEDのランプが使われているが、お香の白煙とLEDの光がどのような感じで見えているのかの表現がなされていない点と造形としてのデザインにもっと魅力を感じる工夫が欲しかった。

◆入選
“ 波の揺らぎ “

作者
竹岡 里紗、 吉崎 史華
大手前大学・建築&芸術学部、3年

審査員講評

素材に触れ、その面白さを使い、形に組み上げようとした作品である。
着眼点は良いながら、惜しむらくは水面への滴下をどのように行うかの考察が見られなかったことである。
リラクゼーションを主体とした企画であるので、横たわる人物の何らかの作業必要性は避けたい。
着想を評価したが、基本となったアイデアを形に落とし込むプロセスに於いて初めて実際の問題発見やその打開が必要な段階に至る。
次の段階に乗り込むことが作品だけでなく、当該企画の精錬につながると思われた。

◆入選
“ 緜 “

作者
土井 琉希也
大手前大学・建築&芸術学部、3年

審査員講評

大切な人との明かりを「記憶を紡ぐ光」であるととらえ、その光を綿による陰影で表現している。綿で彩られた明暗の分布は美しく、光源位置を調整してスタディした努力も感じられる。全体を構成する形状もコンセプトに沿うものであると考えられる。一方で、作品全体としては新規性に乏しく、「記憶を紡ぐ光」として強く訴求するポイントが弱かった。コンセプトから作品のアイディア・形状へ展開する際に、もう一段階踏み込んだ提案が欲しかった。

◆入選
“ イチゴ~幸福の果物~ “

作者
中村 瑠汰、 樋口 和樹
大手前大学・建築&芸術学部、3年

審査員講評

花言葉から発想し、人と人のつながりに寄与するエレメントを考察する姿勢は評価できた。
課題は、それを如何に形に落とし込み具体化するかの試行に不足が見られる点である。着想段階で素晴らしかったものも、具体化プロセスに於いて、新たな課題を生んだり、効果獲得できない欠陥に陥ることは多々ある。それを実際に経験し、打開することで企画力は更に強化される。
当該作品が基本的に持っている人に対する「優しさ」を形にすることは容易いものではないが、具体化の価値があることは確かだと思われる。