一般社団法人照明学会関西支部 2022年 学生照明デザイン競技 受賞作品

照明学会関西支部
2022学生照明デザイン競技 審査結果報告

一般社団法人 照明学会 関西支部では、関西エリアの専修学校、各種専門学校、高等専門学校、短期大学、大学、大学院で学ぶ生徒、学生のみなさんを対象に「2022年 学生照明デザイン競技」を開催し、各種光源を用いた照明器具の設計・デザイン・機能企画の多岐にわたる提案を求め、照明器具設計分野の人財育成と振興に寄与するものとし実施しました。
今回は、54件の応募作品に対し,厳正な審査を重ねた結果、以下のように受賞作品を選定いたしました。本年は残念ながら最優秀賞の該当作品はなく、優秀賞3点、入選4点、奨励賞1点となりました。

【総評】

今年の学生照明デザイン競技の公募テーマは「持続可能な日常生活のために未来へつなぐあかりの提案」です。
応募されたどの作品も、公募テーマに沿って持続可能な日常生活の実現に向けた様々な工夫がされていますが、優秀賞の「積輝」は、持続可能を、人と人とのつながりに求め、その実現を照明に託した作品で、その着想はユニークであると評価できます。
あと2つの優秀作品「焚灯」と「憶い火」はどちらも廃材を活用するという持続可能な社会の実現には欠かすことのできない視点による作品です。「焚灯」は木を削ることによる柔らかい形態と透過光を特徴とし、「憶い火」は相似形の幾何形体を組み合わせたリズムある形態と、規則性ある光が特徴であり、同じように廃材を素材としても、全く傾向が異なるデザインとなっており、廃材を利用する照明に大きな可能性を感じることができました。
また、入選作品にも持続可能な日常生活の実現に向けた様々な試みが見られ、感心させられた次第です。
応募された学生の皆さんには、今後も持続可能な未来に向けたデザインを続けていただくことを期待しています。
京都市立芸術大学 辰巳明久教授

照明学会関西支部
学生照明デザイン競技2022企画運営委員会

◆優秀賞 3点◆

作品名 所属 受賞者名 作品写真(クリックで拡大)
積輝 ‐tsumiki‐ 立命館大学 高部航南
大久保杏美
講評
いろいろな色に着色されたガラス素材を円形のステンドグラス風にデザインし、軸に磁石を用いて組み合わされた円形ガラスが中に仕込まれた導光板によって発光しそれぞれが個性を持った光を放つという提案。今回テーマのSDGsの「持続可能な日常生活のために未来につなぐあかりの提案」に対して「誰一人取り残さない」 をコンセプトに、人と人のつながりに求め、あかりを通して、組み合わせ、つながる事にポイントを置いたユニークな発想が評価された。
解説には4色のカラーフィルターとあるが、基本になる色が、RGBの光の三原色+Yのようにも見えるが、淡い色もベースに見る事ができ、どのような組み合わせで「相手の光と組み合わせる事で唯一のあかりが生まれる」のかが希薄であり、この提案に際し、イメージを表現するために具体的にモデルは製作していると思うが,背面より光を当てているようにも見え、提案図面にある導光板によるエッジライト効果がイメージのように再現されるか否か疑問はある。
焚灯 TAKITOU 大阪公立大学
大学院
森風香
講評
「焚灯」は長い歴史の古民家の廃材を活用するという持続可能な社会の実現には欠かすことのできないリサイクルの視点から発想し、木を薄く削ることで光を透過させ、優しさのあるフォルムと焚火を思い起こさせるほっこりとした癒しの光をも表現している。イメージ写真にあるように、壁に立てかけることにより、間接光の効果も生みだしている。今回のテーマであるSDGsの考え方の中でも明るく照らす機能照明ではなく、夜の闇に焚き木をし静寂な中で考え耽ることにより人の心や癒し効果を期待するあかりとしての存在が評価された。
提案ではLED光源を用いとあり、LED電球の様なイラストが描かれているが、照明の提案として光源の種類、古材と光源の位置関係などもう少し具体的な表現があれば、一層提案内容が解り易く具体的になりよかったと思う。
憶い火
- 光から見る過去と未来 -
大阪公立大学
大学院
岡野恋
講評
解体現場の廃材をコの字形に切ったユニットを角度を変えて組み合わせた形状の照明器具であり、幾何学的なフォルムが美しい。組み合わせている材料の高さが異なるため回転対称ではないが、器具の置かれた水平面に作られる影は回転対称となっている点も興味深い。スリット越しに見える低色温度の光源もこの器具のコンセプトに合致したものである。また床と壁の入隅部分に配置している点も、この器具が作る明暗のパターンを活かすものであり、かつこの形状が最も美しく見える視点位置を考慮したものであると考えられる。一方で、過去未来という時間の概念とこの形状との関係が希薄であり、古い廃材と新しい廃材が新旧の時代を感じさせるという主張もやや違和感を感じる。また「想う」ことと「持続可能な日常生活」との関係についての説明も弱い。もう少し説得力のある主張が行われていればより高い評価が得られていたと考えられる。

◆入選 4点◆

作品名 所属 受賞者名 作品写真(クリックで拡大)
知育灯
- 体験から学ぶあかり -
大阪公立大学
大学院
上坂朋花
講評
知育玩具に光を利用するというアイデアが新しく、良好なデザインも評価できる。木材パーツの組み方や光源の位置を自由に変えながら、楽しく遊ぶ子どもたちの姿が想像される。ただし、SDGsとの関連において、建築廃材の学びに焦点が当てられているが、具体的な効果がイメージしにくい。むしろ、「知育灯」は光自体について様々な学びを与えられる可能性を示しており、照明デザインとして、光のSDGsを学ぶ工夫が期待される。
華鞠
- 花ナキ路地ニ咲ク華ヲ -
大阪公立大学
大学院
田中真理奈
講評
廃材を用い,花やボールのように形を自在に変える事ができる照明器具を起案し、それを路地行灯や手持ち照明として活用する提案に取り纏めている。廃材を細かく切断加工し、それを針金に通して照明を形作るという計画になっているが、形のまとまりや審美性を維持する機構企画には苦労したように感じられた。造形上の仕舞に何らかのウィットやアイデアが加わり、愛着を覚え易い姿に作り込めば,この作品は更に昇華出来たと思われる。
ナガヤ・ドミノ・
アカリ・システム
大阪公立大学
大学院
金隼泳
講評
古い家屋の解体後の廃材を、簡単な方法で、路地や住まいを彩る照明として再生しようとする試みが、企画の独自性や社会的価値の観点において評価された。一方で、照明の具体案に関しては、ごみの再生に着目していながら「ライトリボン」にプラスチック素材のクリアファイルを用いるなど、疑問符がつく。プラスチックごみの問題が顕在化している現状を考慮すれば、適切な素材を用いて、より魅力的な照明を考案することができたであろう。
LAN tern
- ランタン -
大阪公立大学
大学院
呉屋ユリ音
講評
建築廃材の中で、あえて自然由来ではない廃ケーブルに着目し、これを導線と被覆材に分けて照明器具に利用したものである。同じ廃ケーブルの材料であるが、導線には「光を反射する金属」、被覆材は「シルエットを作る樹脂」という異なる役割を与えた点が興味深く、かつ細くて繊細な光を放つ導線に対し、武骨な太い影を作る被覆材を対比させている点も面白い。一方で、総合的な完成度がもう少しであり、粗削りな印象となっている。

◆奨励賞 2点◆

作品名 所属 賞者名 作品写真(クリックで拡大)
Changing Window
- 変化する窓
 変化する気持ち -
大手前大学 丸宮凜華
内田笑瑠
講評
疑似窓に空調設備を組込む発想が斬新で面白い。
提案している窓面への情景の映し出し方法や、組込む空調設備の省エネルギー対応の、各々の具体策が述べられていると更に良かった。
なお、SDGsの該当項目を記述しているが、本質的にSDGsで述べられていることはすべて人類が普遍的に目標としていくべきことであるので、世間一般的な解釈はそうであっても、いくつかを抽出してクリアしていることを示すに留まって良いはずがない。今後のものづくりへの対応も、包括的にすべての項目につなげる姿勢で取組んでいただきたい。
トントン灯
- 廃材の想いを、
 編みつなぐ -
大阪公立大学
大学院
高橋美沙樹
講評
伝統的でありながらも失われがちな職人技の再生を照明器具に活用しようとする発想は見事である。
ただ、手間がかかり熟練の職人技を要するがゆえに失われがちであると述べられている一方で、照明器具として再生する際に、いかに、この手間がかからなく対応可能とするかの具体的検討がなされていなかったので、ここを示して頂くと更に良かった。また、トントン葺きなる仕上げに使用されていたサワラを編んだことによる造形的な利点にも言及して頂くことも大切。