一般社団法人照明学会関西支部 2023年 学生照明デザイン競技 受賞作品

照明学会関西支部
2023学生照明デザイン競技 審査結果報告

 一般社団法人 照明学会 関西支部では、関西エリアの専修学校、各種専門学校、高等専門学校、短期大学、大学、大学院で学ぶ生徒、学生のみなさんを対象に「2023年 学生照明デザイン競技」を開催しました。本競技は、各種光源を用いた照明器具の設計・デザイン・機能企画の多岐にわたる提案を求め、照明器具設計分野の人財育成と振興に寄与するものとして実施しています。
 今回は、27件の応募作品に対して厳正な審査を重ねて受賞作品を選定し、最優秀賞1点、優秀賞2点、入選5点、奨励賞該当なし、となりました。

【総評】

 今年の学生照明デザイン競技の公募テーマは「主張する光」で、照明器具や光そのものの存在感が薄れつつある昨今において、周囲との調和に配慮しながらも光が存在を主張する照明器具や照明方式の提案を求めたものである。応募作品は、このテーマに沿ってそれぞれの方法で「主張する光」を実現するためにアイディアや工夫を積み重ねたものである。このようなコンペティションは、コンセプトと実現された作品そのもののとのバランスが重要であり、今回高く評価された作品はそれぞれ説得力があるユニークなコンセプトに基づいており、そのコンセプトによる光環境を実現するための技術に裏付けられた作品となっていると考えられる。特に、最優秀賞である「ひかりと歩む道」では、人に寄り添って変化する光が存在を主張しており、優秀賞である「PONG DANG LIGHT」は 不思議な輝度分布が、「Time passes so slowly」は意匠性の高さが照明器具の存在を主張している。そして3点とも、それぞれの照明方式や照明器具が調和する場があり得ることに対して高い説得力を持つ。また、入選作品もテーマを様々な角度から解釈した素晴らしい作品であるが、それぞれの作品の評価結果は、それぞれの作品の講評で詳述されている。なお、残念なことであるが、コンペティションの規定に反して失格となった作品が数点あった。規定に関しては、応募要項や提出書類に記された規定に留意されたい。
 本コンペティションは次年度以降も続けられるものであり、今年の結果を含む過去の入賞作品とその評価結果の蓄積が、次年度以降のコンペティションのレベル向上につながることを期待するものである。

照明学会関西支部
学生照明デザイン競技2023企画運営委員会

*ここをクリックすると、下記の表内のプレゼンテーションシートのアイコン画像を拡大したものを参照可能です。

◆最優秀賞 1点◆

作品名 所属 受賞者名 プレゼンテーションシート
ひかりと歩む道 奈良女子大学
大学院
中村 彩乃
講評
 作者自身の経験を元に、夜間歩道通行時の安全、安心を作り出す光として発案された作品である。フェンスに照明を取り付けるアイディア自体は既に存在しているが、当該作品ではセンサーを用い夕刻以降の地明かりを確保する他に、人を感知し明るさを変えることで人の往来を光が支える設えに力点が置かれていた。足下灯類で路面輝度を確保する手法は、一般街路灯光源を見上げる事で起こるグレアを避ける手法の一つであり、不快感の少ない視認性確保に役立つ手法でもある。且つ、この企画には増光と減光に速度の違いを設けることによって人の往来方向に応じ雫型の光の造形が生まれる面白さがあり、この点にも作者の光に対する世界観を感じることができた。本年度のテーマである「主張する光」に対しこの作品の訴求ポイントの是非についての論議はあったが、照明器具自体が存在を訴求する表現もあれば、この作品のように光が周辺環境や我々の営みに寄り添い支えることによって光の存在を主張する切り口もあると、審査委員会で改めて確認した次第である。

◆優秀賞 2点◆

作品名 所属 受賞者名 プレゼンテーションシート
PONG DANG LIGHT
(ポーンダーンライト)
大阪芸術大学 きむ じゅん ひょく
講評
 中心が暗く外側に向かって明るく広がる光が印象的な作品である。作者は夜の池に映る光の風景から着想を得て,水の透明感と光の存在感を両立させ,それを韓国語で水が落ちる音を表すpong dangと名付けている。アクリル板の内側で曲線のエッジを光らせることで光に形を与え,揺れる雫のような動きを感じさせる。さらに,和紙によって光の柔らかさが調整されており,美しいグラデーションが現れている。薄い素材の中に光の広がりを表現するセンスの良さと技術が優秀賞として評価された。端部の仕上げに工夫がほしい点が惜しいところであった。
Time passes so slowly 武庫川女子大学 具志堅 美輝
講評
 和の美意識をテーマとした作品であり、手毬のような形状と「鱗」の和紋様を組み合わせている。形状としては正二十面体であるが、20枚の部品を円とし、円に内接する正三角形部分の外側を糊代とすることで、加工が容易となりかつ糊代部分が明暗のパターンを作っている。正三角形が5枚が集まると3次元のかたちとなるが、6枚集まると平面充填パターンである「鱗」となり、正三角形のみが平面を埋め尽くす。ここで、三角形の辺をあえて内向きの曲線とすることで、3頂点の「七宝」のようなパターンとなり、円と内接する三角形を組み合わせた部品のかたちが暗示されている。この不思議な関係は、見るものを飽きさせない効果があると考えられる。作品タイトルは冗長であり、ここまで和の美意識にこだわった作品との相性もよいとは思えない。

◆入選 5点◆

作品名 所属 受賞者名 プレゼンテーションシート
コウコウ灯
―助けを求める光×香―
大手前大学 狩野 翔子
講評
 災害時に必要な要素を整理し,日常に使う水筒に入れて持ち運ぶという新たな視点で提案された作品である。水筒の中に入れた赤い光で位置を知らせ,さらに光源の熱で香りを放つことで,遠くまで自分の存在を主張する優れたアイデアである。水の中に電源や電球が入る点や,白熱電球を使用している点に実現可能性を考えにくいことから,技術的な工夫を加えるとさらによいだろう。
波 ―光の正体、物としての姿― 大手前大学 橋本 千菜子
講評
 電子派の一種である光の波動性を照明器具として再現した発想が斬新で面白い。今回のテーマである「主張する光」との合致に関しては、光源は隠されているものの、光の正体である波動性をカタチとして演出したことで納得できる。また、電源の切り替え方としてスイッチやセンサーではなく、物の重さに反応するようにしたことで、ただの照明器具を超えて部屋の雰囲気を喚起させるインテリアオブジェとしても価値があると思われる。
癒しのゆらぎ
―光の中に自然を見出す―
奈良女子大学 杉本 晴香
講評
 自然の光は常に変動しており、何億年もの間その自然光の下で生きてきた生物としてのわれわれ人間が変動する光によって癒されるのではないかという発想が評価された。また、LEDが照明用光源として一般的になった現在、調光が容易であるというLEDの特長をうまく活かせる提案となっている点、ゆらぎがパターン化して繰り返しているように感じないように、2つのLEDの出力の変動とシェードの回転を組み合わせている点もよく考えられていて良い。実際の自然の光の変動と比較してより癒しを感じられる条件を見出すなど、研究テーマにつながる可能性もあり、更なる深掘りも期待したい。
永花ーeikaー 武庫川女子大学 松本 真美
講評
 花のいのちはみじかくて、とも言われるが、ドライフラワーの命ははるかに永い。本作品はそのドライフラワーにヒントを得たものであり、実現された光はシンプルなものであるが、光源を昼光色とした場合のドライフラワーに見立てた緑とピンクのレジンからの光、及びそれを包む白い光のバランスが美しい。光を供給する照明器具でありながら、直接目にしても楽しめる仕掛けで、本コンペティションの「主張する光」というテーマに適合するものであると考えられる。一方で、光源色を変更した場合の見え方は、昼光色の場合に比べて光源の色が強過ぎ、他の色を用いている効果が打ち消されてしまっている。月日の経過による変化を色に求めるのであれば、より効果的な例で説明すべきであったと思われる。
CUBE LIGHT 滋賀県立大学 稲垣 里菜、
髙木 遥  
講評
 一見シンプルに見える器具ではあるが、側面の4面に対して質感の異なる素材を採用することで、光の演出の変化をうまく演出している。器具と光源を分離し、誰もが手にしているスマートフォン(光源)を用いて自身で最適な光環境を調整できるよう工夫を凝らした点が本コンペティションの「主張する光」というテーマに適合するものと考えられる。光源としては利便性の高いスマートフォンを着眼点に挙げられたことに理解はするが、提案灯具に最適な光源に対しての説明補足があればなおと良かったと思われる。