一般社団法人照明学会関西支部 2024年 学生照明デザイン競技 受賞作品

照明学会関西支部
2024学生照明デザイン競技 審査結果報告

 一般社団法人 照明学会 関西支部では、関西エリアの専修学校、各種専門学校、高等専門学校、短期大学、大学、大学院で学ぶ生徒、学生のみなさんを対象に「2024年 学生照明デザイン競技」を開催しました。本競技は、各種光源を用いた照明器具の設計・デザイン・機能企画の多岐にわたる提案を求め、照明器具設計分野の人財育成と振興に寄与するものとして実施しています。
 今回は、34件の応募作品に対して厳正な審査を重ねて受賞作品を選定し、最優秀賞は該当なし、優秀賞2点、入選4点、奨励賞2点となりました。

【総評】

 今年の学生照明デザイン競技の公募テーマは「こんなあかりが身近にあればいいな」をテーマに、照明もウエルネスという言葉に示されるに、私達の生体リズムと太陽光は密接に関係していると言われている。LED光源が一般的になり、ひとつの照明器具で朝日のような色、お昼のような色、夕日のような色が再現できるようになり、中には太陽光と同じ分光分布を持った太陽光スペクトルのLED光源も製品化されている。このような背景を基に、あなたのキャンパスやアルバイト先で、あるいは住まいでこんなあかりがあれば、心地いいだろうなとか、勉学がはかどるだろうな等、ヒトに寄り添った心地よい照明器具の提案を求めたものである。
 ヒューマンセントリックライティングを視野に入れた応募作品を期待したが、残念ながら、今回の応募作品はこの大きなテーマに沿って考えられた作品が非常に少なかった。
 そのため残念であるが、最優秀賞に該当する作品はなかったという結果になった。 それぞれの作品の評価結果は、作品の講評で詳述されている。 なお、残念なことであるが、今年もコンペティションの規定に反して失格となった作品が数点あった。規定に関しては、応募要項や提出書類に記された規定に留意されたい。
 本学生照明デザイン競技は次年度以降も続けられるものであり、今年の結果を含む過去の入賞作品とその評価結果の蓄積が、次年度以降の学生照明デザイン競技のレベル向上につながることを一層期待するものである。

照明学会関西支部
学生照明デザイン競技2024企画運営委員会

*ここをクリックすると、下記の表内のプレゼンテーションシートのアイコン画像を拡大したものを参照可能です。

◆優秀賞 2点◆

作品名 所属 受賞者名 プレゼンテーションシート
優秀賞 おかたづけシンゴウ 大手前大学 金岡 七海
講評
 教育的観点で照明を活用するという着眼に審査員の評価が集まった作品である。重量計測し光色を変化させる等々技術も可能であり、何らかの形で具現化が期待されるデザイン企画であった。「信号色の意味を教える」という点では、多少記号的な意味差異が含まれるものの、社会一般で使われることの多い色彩記号意味を伝える事には寄与できると思われ、照明機能をこのような分野に発見した視点は高く評価できると考えた。
 ”収納70%の達成度”に至るまでは「赤」の点灯となるのだが、おかたづけの達成感を与えるために光色範囲設定はさらに検討余地ありと感じるところがあった。更なるデザインの昇華として期待されるのは意匠的な記号精錬度合いである。昨今LED光源には色変化や調光だけでなく、それらを用いた動きのあるサイン効果にも期待したいところがある。前述通りこのデザイン企画は照明の機能範囲を広げるものであり、アイデアとして更なる発展を期待したいと考えた次第である。
優秀賞 武庫川女子大学 森久 陽和
講評
 今回の学生照明デザイン競技では、応募作品の点数が僅差であったことが大きな特徴で、抜きんでた作品がなかった。この「塔」をはじめ上位の作品は同点と言ってよいくらいの点差で、審査委員会でも議論を重ねた結果、何とか優秀賞となった作品である。
 作品自体はデザインの項目で評価を受けた作品ではあるが、募集要項にあったLEDの特徴である調光調色といったヒトに寄り添った機能の提案も弱く、ハードとしての照明器具の素材もスチレンボードで作られたチープなものであり動かせるとはあるが、そのメカニズムの説明もなく動かすことによる選択素材の耐久性も考慮されているのかなど、突っ込みどころの多い作品でもあった。この辺りがしっかりと検証されていれば最優秀賞に一歩近づいたのではないだろうか?

◆入選 4点◆

入選 灯の葉 あかりのは 大手前大学 林 希圭
講評
 樹木や生垣の影による暗い夜道の安全性向上と生態系への影響を配慮した持続可能なデザインが魅力的である。特に双葉を模した可動式の面発光光源により眩しさを抑え、足元を効果的に照らせるよう工夫がされている。また、人感センサーによる省エネ設計は気候変動対策にも配慮されており、植物への負担を軽減する工夫も評価できる。改善点として、電池交換の負担軽減のために、太陽光発電などの給電方法や、適切な配灯間隔が検討されていれば、さらに魅力が増すと考えられる。
入選 ウィルライトチェアー
~持続可能な車椅子~
大手前大学 川口 涼
講評
 日本の高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は28.6%と、先進諸国の19.3%と比べても高く、大きな社会課題となっている。(令和4年版高齢社会白書 内閣府より)
 本作品はその中でも特に車椅子にフォーカスし、夜間の行動をより安全にするための「車椅子専用照明器具」を提案したものであり、その社会的な価値の高さが評価されたポイントである。一方技術提案はありきたりなものが中心であり、少し物足りない感じがした。例えば高齢化に伴う瞳の老化現象と、それに対するあるべき光源の提案などがあれば、より深みが増すように感じた。
入選 なでて寝
〜ぬくもりの明かり〜
滋賀県立大学 重水 愛唯
講評
 この作品は、就寝前にスマートフォンを使用することで起こる睡眠の質低下という現代的な課題に対し、独自の解決策を提示している点が評価できる。日本人に馴染み深い犬をモチーフにした照明デザインは、ボア生地の柔らかい手触りや発光時の温かさで心理的な安心感を提供し、感性的な魅力を強調している。機能面では、前足部分にスマートフォンを置くことでスイッチが作動する仕組みを採用し、自然とスマートフォンから離れる行動を促す点が優れている。
入選 Bloom lamp 武庫川女子大学 竹田 梨花
講評
 とても洗練された作品で華やかさだけでなく柔らかな光が空間を包み込み安らぎや心地よさも与えてくれている。花びらの角度調整や素材の重なりでつぼみから咲いた花まで表現できるため手に取った一人ひとりが自分だけのオリジナルの照明も創れることが素晴らしいアイデアだ。フルカラー演出が出来ると季節の花も咲かせることが出来る。製作に苦慮されたと思われるが、実物を見てみたい素晴らしい作品であった。

◆奨励賞 2点◆

奨励賞 TREE LIGHT 武庫川女子大学 藤本 明日海
講評
 意匠器具提案は複数存在したが、この作品は木の葉の重なる様子を単純幾何形態で表現し、越前和紙の重なりによる透過光の濃淡で自然界の木漏れ日を感じさせる工夫を凝らした点が評価された。小さな照明器具の中に素材と光の重なり抑揚を見つけ、それを造形とした点が評価できる。また、これを用いる空間に関しては個人の小さな空間との設定があったが、同デザインが他の空間にも展開できる機能要素を有していれば、更に高い評価に至ると思われた。
奨励賞 Contour Light 大阪芸術大学 岡本 歩実
講評
 単純なユニットの積層をくり返す操作の中に、ユニットの回転操作を加え、全体としてユニークな形とするデザイン手法によるもので、回転操作に変化を持たせ、その結果明暗として表現される形状により不安定を表現している意欲的な作品である。回転操作の変化や光源の位置などのより細かいスタディーが行われ、かつ著者の主張する安定と不安定の関係についてもう少し分かりやすい説明があれば、より高い評価が得られたと考えられる。